宝塚を今年2月に退団した、宝塚元宙組トップスター凰稀かなめが、退団後初の舞台としてコンサート「The Beginning」を、4月15~16日に東京EX THEATER ROPPONGIで行う。新たなスタートを切った凰稀が、どんなコンサートを見せてくれるのか、話を聞いた。(フリーランスライター・岩村美佳)
宝塚では機会がなかったので、コンサートをやってみたいと思ったという凰稀。内容について聞くと「英語の歌あり、ダンスシーンあり、コント的芝居があり……曲目は一切お教えしません! でも確実に楽しいと思います」と多くを語らない。その心を尋ねてみると、「皆さんをびっくりさせたいから言わない」と笑う。想像できない内容になるといい、「最初は皆、ぽかーんとなると思います。びっくりするんじゃないかな」といたずらな表情。
構成・演出はダンスグループ「Bags Under Groove」のリーダーで、多くのテレビやコンサートで演出・振付を行っているTETSU。出演は、凰稀の他、宝塚出身の白華れみ、宝塚作品への振り付けも行う平澤智、「Bags Under Groove」のIYO-P。凰稀は、「それぞれが個性的で面白いですね。演出のTETSUさんも、皆の雰囲気がとてもいいと言ってくださっています」と印象を語る。そして、「私が男の人と踊ることが慣れていないので、どうしても手を受ける方にしてしまったり、カップルで踊るときに先行してしまう癖が出てしまったり。慣れないですね」と稽古の様子を話した。
有料ページでは、コンサートについて、多くを語らぬ理由、宝塚時代について話しています。ぜひご覧ください。
〈凰稀かなめさんプロフィール〉
2000年、86期生として宝塚歌劇団入団、雪組に配属。初舞台は「源氏物語 あさきゆめみし」。2005年「霧のミラノ」で新人公演初主演。2006年「Young Bloods!-魔夏の吹雪-」でバウホール公演初主演。2009年星組へ組替え、2番手に。2011年宙組へ組替えとなり、2012年「銀河英雄伝説@TAKARAZUKA」で宙組トップスターに就任。「モンテ・クリスト伯」「ベルサイユのばら」「うたかたの恋」「風と共に去りぬ」など、名作で主演を務める。2015年「白夜の誓い-グスタフIII世、誇り高き王の戦い-」で宝塚歌劇団を退団。
(1)宝塚でコンサートをやれなかったから、やってみたいな
――どんな思いから退団後初めての舞台でコンサートをやろうと思われたのでしょうか?
宝塚でコンサートをやれなかったので、やってみたいなと思いました。宝塚では、まずディナーショーをやりたかったんです。
――なるほど。
雪組から星組に移動して柚希(礼音)さんの側で二番手になった後に、ワークショップ以外で初めてバウホールと日本青年館で主演をさせて頂き、宙組で(大空)祐飛さんの側で二番手をやらせて頂く中で、バウと青年館の2回目をやらせて頂き、トップになってからは博多座、全国ツアー、中日劇場……と行きましたが、ドラマシティ公演はやっていないんです。それまでディナーショーをやる機会もなかったので、退団のときにディナーショーだけはやりたいとお願いしてやらせて頂きました。在団中は、コンサートをやるタイミングがなかったですね。そういう経緯もあって、今回やらせて頂きたいと思ったんです。
――在団中と退団後ではコンサートの内容も変わってくるのかなと思いますが……。
やったことがないのでわからないです(笑)。でも、今思えば、正直なところ在団中にやってもやらなくても良かったかなと思います。宝塚は宝塚ですから、アイドルの皆さんと同じようなことをすることはないのかなと思いましたね。
――男役を極めて、芝居を追求する方がいい?
はい。そういう深い部分の格好良さを見せるのが宝塚で、やはり夢の世界の男ですから、その切り替えをちゃんとしておかないといけないと思います。
――男役を貫けたんですね。
そうですね。
(2)曲目? びっくりさせたいから言わない、教えない!
――コンサートの内容をうかがいたいのですが。
英語の歌あり、ダンスシーンあり、コント的芝居があり……ぐらい!(笑)。
――曲目はシークレットですか?
はい。一切お教えしません!
――それはどんなポリシーがあるんでしょうか?
教えてしまったらつまらないと思うんです。皆さんをびっくりさせたいから言わない(笑)。
――気持ちをあおるためにも事前に数曲発表しておくコンサートも多いですが……。
教えない!(笑)。
――(笑)。では、稽古が始まって、共演の皆さんの印象はいかがですか?
それぞれが個性的で面白いですね。演出のTETSUさんも、皆の雰囲気がとてもいいと言ってくださっています。私が男の人と踊ることに慣れていないので、どうしても手を受ける方にしてしまったり、カップルで踊るときに先行してしまう癖が出てしまったり。男性がぐいっとひっぱってくれるんですけれど、それより先行して踊ってしまう(笑)。慣れないですね。
――リードされるのは気持ちがいいですか?
まだちょっと気持ち悪いです(笑)。慣れてくるとは思うんですけれど。周りに大丈夫かなといつも聞いています。大丈夫だと言ってくださるんですけれど、よくわからない状況に陥っています。
――男性と一緒に踊っていると、「私、女性だな」と思うことは?
筋肉量が全然違うので、体も大きいですし、なんだろう……野獣みたい(笑)! やっぱり男の人はそうなんだなと思いましたね。肉食系な踊り方をされますし、私たちはスマートな男役というもので踊ってきたので、踊り方も、リズムの取り方も全然違いますし、不思議な感じですけれど、見ていて面白いですね。
――新たな発見も?
ありますけれど、もう今はついていくのに必死で(笑)。
――白華さんがいらっしゃいますが、凰稀さんが男役で組んだりするような場面もありますか?
一瞬ある……かも?
――「かも」ですね(笑)。
そこは濁しつつ、「かもしれないよ」ということで。
――見に来られる方は、「どんな感じだろう?」と、もやもやしながら来るわけですね。
「どんなのを見せてくれるの!?」という気持ちで来てくださればうれしいです。
――コンサートをご覧になった方が「これは新しい凰稀かなめだ!」と思う感じでしょうか?
驚くと思います。それを第一にTETSUさんが考えてくれるはずです。
――退団後にコンサートをされる方も多いですが、男役の雰囲気を残していたり、かっこいい女性の雰囲気が多い印象です。
またそれとも違うと思いますね。
――コンサートはそれぞれ個性が強く現れると思うのですが、お話をうかがっていると、何か爆弾を落としそうな感じですね。
爆弾は落ちると思います。最初は皆、ぽかーんとなると思います。びっくりするんじゃないかなと。
――想像できないような内容なんですね。
できないんじゃないかなぁと。もう、見てのお楽しみです!
(3)作品を見て感じて、何かを見つけていってほしい
――ざくっとした情報だけを皆さんにお渡しして、どんな気持ちで見にきてほしいですか?
それは自由に、皆さんにお任せします。
――おそらく観客は、宝塚から応援されている凰稀さんのファンの方がほとんどだと思いますが、そういう皆さんとどんな時間を過ごしたいですか?
どうしたいということはあまり考えていないけれど、確実に楽しいと思います。
――こういう舞台を見せるけれど、あとは自由に感じてくださいっていうスタンスなんですね。
最近、皆さん知りたがりだと思うんですよ。先に知っておきたいって。でも知って何になるんだろうと思うんですよ。私は舞台で生の反応を見たいですね。
――皆さんが絶対に喜ぶと自信に満ちあふれていらっしゃいますね。
自分にプレッシャーを与えているんですけれどね(笑)。宝塚の時は嫌でも教えなければいけなかったじゃないですか。それが嫌だったんですよ。いろんな場面で話さなければいけなかったのがすごく嫌で、なんで教えなければいけないのかなって。見にきて、感じてくれたらそれでいいじゃないかと。
――なるほど。
本当の事を知れるかといえばそうではないし、さらに私だけではなくて作品全体の中の人物像として捉えていってほしいんです。私の考えを言ってしまったらそこを目指してファンの方が来てしまうから、そうではなくて自分がこの作品を見て感じて、何かを見つけていってほしいというメッセージを残して毎公演やってきていたので、言いたくなかったんですよ。何か感じ取ってくれたらいいな、この人だったらこうかなといういろんな人の心の動きであったり、気持ちであったりを知りたかったから、逆に私の思いを言わなかったんです。
(4)宝塚では「私情を挟むな」、何か挑戦していこうよと
――舞台を見て感じたことをファンレターなどで読むのは好きですか?
客観的に勉強になりますね。こういう見方もあれば、真逆な考えをする人もいる、じゃあどうするかと。
――その後の演じ方に影響を与えていくことになる?
私は1回1回の公演の中で、ひとつずつテーマを変えていくんですよ。ひとつ重点をおいて、芝居を最後まで続けていくとか。気分が良くなかったり、ウキウキしているとか、日々そういう気分の違いってあるじゃないですか。それが舞台にそのまま出るんです。そうすると、この人物がイラっとしているときにこの作品をやっていったら、物語の途中はどういう風になっていくんだろうかと考える。もちろん最終的には同じ地点に持っていかなくてはならないので、その間を変えてちゃんとつなげていかなければいけないんです。それを楽しんでいました。共演者がその日によって少し違うときもあります。「今日、この子違うな」というのが見えたら、そこに集中させていくとか。いろんなものを見て芝居を作っていました。
――一緒に演じる相手からもまた影響がありますよね。
周りは大変だと思います。
――「今日違うぞ!?」ということになるんですね?
そうです(笑)。「変えてきた!」と動揺しちゃうことが結構ありましたけれど、いつも「私情を挟むな」と言っていたので、そこで間違えてもいいから何か挑戦していこうよと言っていました。
――そうすると、「いいね! その反応」とか「そっちにいってしまうのか……」とかありますよね?
ありますね。
――それに対して、相手にいいとか悪いとか何か伝えるんですか?
言わないですね。何か感じとっていってねという気持ちだけです。物語を最後までつなげることが大切だから、いい悪いなんてないですから。そこに点数はつけられないと思うので、それは見てくださっているたくさんのお客様がそれぞれで感じてくださればいいと思うんです。この人はすごく私のことを好き、でもこの人は私のことをものすごく嫌い、それと同じだと思うから、好みだと思います。だから全員を納得させようとも思っていないですね。
――舞台という「生」が生きますね。
宝塚では1カ月から1カ月半の間、毎日公演をやらなければいけませんでした。宝塚ファンの皆さんはリピーターが多いので、毎日変えていくことで喜んでも頂けるし、舞台の醍醐味(だいごみ)だと思います。でなければ、DVDを買って見ていればいいんじゃないかとなってしまいますからね。これだけの回数を演じる意味があるのだから、毎日皆も変えていこうよと。変えていこうというよりも、絶対に変わってくるはずなんです。ファンの方々を楽しませるためにも。「今日ここが違った」「ここが新しいと」ファンの方もそれを見つけるだけでも楽しいと思います。
(5)星組と宙組で二番手、おふたりに合わせて考えた
――今も芝居の話をされていましたが、宝塚でもひとつの役を丁寧に掘り下げて作られている印象が強かったです。
お芝居が好きでしたね。たぶん、すごく自分に自信がないから、人に成りきってしまったら楽なんだと思います。
――強くいられる、みたいな?
そうだと思います。
――そうすると、強い役の方が良かった?
男らしい役が好きでしたね。人間臭い役とか。
――一番心に残っている役はありますか?
オスカルも好きだったんですけれど、バトラー、ティボルト、キャパ、フォーリー軍曹などの強い、男臭い役の方がすごく印象深いんですよね。イメージ的には「うたかたの恋」のルドルフなどが強いと思うんですけれど、そういうイメージの方が逆に苦手でしたね。
――強い男性を演じる方がシンパシーを感じるんですか?
多分、心の奥底にあるものが出せるから楽なんだと思います(笑)。
――奥底にあるもの!?
私の本来の姿というものなのか……。
――強さや男らしさが?
ずぶとさとか(笑)? 見た目のイメージでは王子様みたいなものが強いと思うんですけれど、本当の心の中、誰もが持っている隠している部分や出せない部分が出せるからすごく楽なんだと思います。
――見せたいとは思わないけれど、役によって引きずり出されるような感じなんでしょうか?
今まで出したいんだけれど、出せなかったんですよね。今は見せても恥ずかしくない。本当の自分を出すのって嫌ですよね?
――確かに嫌ですね。
嫌だし、恐(こわ)いと思うんです。絶対に嫌がられるという思いが出てくると思うんですけれど、「どう思われてもいいや」という考えになってしまったんですよね。
――徐々にそうなった?
徐々にだと思います。トップになったときにはそう思っていましたね。
――トップになったことがきっかけと言う訳ではなく?
それは関係ないですね。
――何かきっかけがあったんでしょうか?
いろいろあったんだと思います。どうでもいいやと思えるようになった。それで嫌いになられるのならどうぞと。
――そう振り切れたら、ある意味楽なのではないかと思います。
楽になってきましたけれど、大変なものも大きいですね。その分、心を強く持っておかないと、しんどい思いは山ほどしますね。
――普通の人ならば、まだ自分が付き合う人の範囲で済むけれど、やはり発した言葉は残るし、「凰稀かなめ」として広く知られていることでその影響力も強いと思います。
そうですね。特に仲間たちとやるときに言ってしまうと、いろんな年代の人が多いですし、合う合わない、理解できるできないとすごく差はありました。私は組替えもしていますから、そこはすごく時間がかかりましたね。人間関係が一番大変でしたね。
――組替えで星組と宙組で二番手を経験されていますが、柚希さんと大空さんはタイプが異なるトップでしたよね。
おふたりは真逆ですね。
――その真逆のどちらともしっくりきていて、コンビ感が強い印象でした。
二番手として横に立つ立場として、おふたりに合わせてすごく考えましたから。元々輝いているトップさんだけれども、その横にいる二番手男役という人間が、もっともっと輝いておかないと、トップさんがさらに輝かないんです。組のピラミッドがちゃんとできているかとか、そういうことを考えていましたね。柚希さんと私は真逆でしたけれど、大空さんと私はタイプが似ているじゃないですか? だから自分がどうあるべきか、より考えましたね。自分をアピールすることよりも、トップさんを考えて二番手時代を過ごしていました。
――その意識がいい効果を生んでいたんですね。そういう経験も中性的な役と男臭い役の両方を演じることにも生きていたのでしょうか?
いろんなものが重なってそうなっていった感じです。いろんな人に出会いましたからね。
(6)誰よりも一番、宝塚を愛していると思います
――スマスマの運動会に出場されたんですよね?(取材時は放送前)
出ました! いきなりお話を頂いたんです。運動会の翌日からコンサートのお稽古だったんです。だからそんなにできないと思っていたんですけれど、「本気でやってください」と言われて、めちゃくちゃ走りました(笑)。
――100周年の宝塚大運動会もありましたけれど、続いてまさかの出場に驚きました。
宝塚ではさよなら公演の稽古中だったので、ケガしないようにと皆が種目から外してくれて、応援ばかりだったんですけれど、SMAPさんのところは容赦なかったですね(笑)。
――放送では本気の凰稀さんが見られるんですね。(追記:凰稀さんが参加した稲垣吾郎さんのチームが優勝しました)
皆さん本当にすごかったです。
――バラエティーにも出演されるのは意外でした。
本当はバラエティーは苦手なんですけれどね。
――雑誌「VoCE」の撮影もされて、退団後の仕事が多岐にわたっている印象です。
そうですね。「VoCE」ではモデルさんのようなお仕事をさせて頂きました。テレビのバラエティーは得意ではないので難しいですけれど。今後もゆっくりと仕事をやっていきます。
――あまり明言されないということは重々承知しているのですが……(笑)。
はい(笑)。いつものことで。
――オファーが来た仕事に対してどう選ぶとか、やろうと思う決め手はありますか?
今後、元タカラジェンヌというレッテルがついてまわるので、宝塚の印象を壊すようなことは絶対にしたくないです。
――宝塚の良さを伝えていくものならばいい?
いいですけれど、積極的にやろうとは思っていないですね。何が良くて何がダメなのかという判断を、現状でできるかどうかがまだ恐い部分もありますし、宝塚に関わることは少し置いておきたいという気持ちですね。
――慎重なんですね。確かに、真意と間違って伝わってしまうこともありますよね。
そうなんです。現役の子たちに迷惑がかからないようにやらなければいけないと思います。そして、ファンの人に嫌な思いをさせたくなというのが一番ですね。
――宝塚への愛情を強く感じます。
誰よりも一番、宝塚を愛していると思います。
〈インタビューを終えて〉
「潔い」という言葉が浮かんだ。「凰稀かなめ」という生き方を徹底して、人に媚(こ)びることはいっさいない。「誰よりも一番、宝塚を愛していると思います」と話したときの表情が忘れられない。宝塚を愛している、けれどこれ以上は語らないよといっているような瞳は、その心の奥の深さを感じる瞬間だった。
一筋縄ではいかない、すぐにはぐらかされてしまうような、面白い問答だった。「教えない」といたずらっ子のように微笑(ほほえ)まれると、「うーん、困った」と降参してしまいそうになる。なんとか食い下がり引き出したその核心がまた面白い。もう少し踏み込んでもいいよというときと、ここからはダメというとき、その境を探り当てるようにインタビューを進めていく。打てば響くか響かないか。セッションのような楽しい時間だった。
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