宝塚宙組公演「ベルサイユのばら―オスカル編―」が、5月2日、宝塚大劇場で初日を迎えました。トップスター凰稀かなめさんは、2013年4月に雪組で上演されたフェルゼン編にオスカル役で特別出演して大好評を博しましたが、今回は自らが率いる宙組でオスカル編と題し、その魅力を余すところなく発揮しています。(フリーライター・さかせがわ猫丸)

 宝塚歌劇最大の財産ともいえる「ベルばら」も、40年を数えることとなりました。劇団100周年を迎えた記念すべきこの年にも、もちろん上演は欠かせません。前回の大劇場公演「風と共に去りぬ」で究極にダンディーな男を演じた凰稀さんが、一転、男装の麗人へ。宝塚ならではの劇的な変身で挑むのは、2006年に雪組で上演されて以来の「オスカル編」です。従来にはなかった新しいシーンも盛り込んで、オスカルが育った背景をより明確にし、空飛ぶペガサスもリニューアルしてゴージャスに登場、おおいに客席を沸かせました。

 凰稀さんは漫画からそのまま飛び出したかのような美しさに加え、いつものクールなイメージを破り、情熱的で凛々しいオスカル像を確立。朝夏まなとさん、緒月遠麻さん、七海ひろきさんが、アンドレ、アラン、ジェローデルの役替わりをつとめ、2つのパターンで違った個性が楽しめるのも見どころとなっています。

 さらに今回はフィナーレで黒燕尾に至るまですべてのナンバーを、凰稀さんがオスカルのままで踊り、芝居の世界を最後まで味わえるのも新鮮な試みでした。

 それでも、フランスの自由、平等、友愛を求めて勇敢に戦うオスカルの姿と、アンドレとの純愛、それらを表現する昔ながらの‘型’を生かした、ベルばららしい部分は何も変わっていません。そしてその様式美こそが、人々の胸を打つことも…。

 100年という歴史を経てもなお進化し続ける宝塚で、「ベルばらの世界」だけはこれからも永遠に守り続ける。これこそが財産なのかもしれませんね。

(1)凰稀:麗しさはまさにリアルオスカル

2014年5月16日更新
写真:「ベルサイユのばら」より、オスカル役の凰稀かなめ=撮影・岸隆子「ベルサイユのばら」より、オスカル役の凰稀かなめ=撮影・岸隆子

 池田理代子先生が描いた原作には、多くの魅力ある登場人物と、数えきれないほどのエピソードが詰め込まれていて、2時間半の舞台ではとても表現しきれないほど。そのため、オスカル、アンドレ、フェルゼン、マリー・アントワネットから、アラン、ベルナールに至るまで、視点を変えたバージョンがいくつも生まれ、ベルばらの面白さはあらゆる角度から追求されてきました。そんな中でも変わらぬ一番の主人公はやっぱりオスカルです。今回はその王道ともいえるオスカル編が、ベルばら40周年を迎えたこの時、どんな風に描かれるのか、とても楽しみでした。

 幕開きは、お馴染みの小公子と小公女たちが歌う「ごらんなさい」の華やかな場面から。そのセンターでソロを歌う和希そらさんは、新人公演でのオスカル役が決まっています。そしてアンドレ役の朝夏さんを筆頭に、軍服姿の男役たちが華やかに踊ったあと、舞台中央に巨大なオスカルの肖像画が現れ、大階段の真ん中に凰稀さんが登場します。「我が名はオスカル」を熱唱しますが、その麗しさはまさにリアルオスカル。胸元に金色の飾りをたっぷり施した真っ赤な軍服は新調でしょうか。抜群のスタイルと美貌にブロンドの髪が映え、漫画からそのまま飛び出したような姿に、思わずため息が出そう。

 ――1755年、フランス。代々、王家を守ってきたジャルジェ家に6人目の女の子が生まれた。跡継ぎを願っていたジャルジェ将軍(汝鳥伶)は落胆したものの、この娘をオスカルと名付け、男として育てることを決意する。父の期待通り、オスカルは凛々しく成長し、成人した頃には近衛隊隊長として活躍するようになっていた。だが、贅沢な暮らしに明け暮れる王侯貴族のせいで、重税と貧困にあえぐ民衆を見かねたオスカルは、衛兵隊への転属を願い出る。副隊長のジェローデル(七海/朝夏)らが強く反対するも、強い決心が揺らぐことはなかった


(2)七海:貴族らしい佇まいで、穏やかな愛を

2014年5月16日更新
写真:「ベルサイユのばら」より、ジェローデル役の七海ひろき=撮影・岸隆子「ベルサイユのばら」より、ジェローデル役の七海ひろき=撮影・岸隆子

 物語は、ジャルジェ将軍と5人の娘たち(純矢ちとせ、瀬音リサ、愛白もあ、彩花まり、伶美うらら)が新しい命が誕生するのをワクワクしながら見守るシーンから始まります。5人姉妹は皆、お姫様のように輪っかのドレスを着て可愛らしく、常に明るくかしましい。今回は彼女らと母親(鈴奈沙也)、そして将軍がひんぱんに登場することで、オスカルが家族みんなから深く愛されて育ってきたことが伝わります。

 オスカルの子ども時代を演じるのは、キュートな明るさが魅力の星吹彩翔さん。役柄にピッタリとハマっています。勝気で利発な少女を生き生きと表現し、幼い頃から培われたオスカルの原点ともいえる部分を、観る者の心に刻み込みました。

 オスカルが登場するまで、時間を多めに割いて、成人するまでを家族が一気に説明します。マリー・アントワネットとの関係やフェルゼンへの恋心も大胆に割愛し、1幕ではアンドレの紹介もほとんどありませんが、その代わりジェローデルが厚めに登場し、存在感をアピールしていました。初日に演じたのは七海さん。美しく整った顔立ちにウエーブロングヘアも映え、貴族らしい佇まいで、オスカルを愛していることを穏やかに感じさせます。

(3)緒月:人情にあつく、自身の魅力を最大限に

2014年5月16日更新
写真:「ベルサイユのばら」より、アラン役の緒月遠麻(中央)=撮影・岸隆子「ベルサイユのばら」より、アラン役の緒月遠麻(中央)=撮影・岸隆子

 ――衛兵隊の訓練場に現れたオスカル。だが、班長のアラン(緒月/七海)を始め、荒くれ者の衛兵隊士たちが女の隊長を受け入れるはずもなく、上官であるブイエ将軍(寿つかさ)からの風当たりも強い。それでもオスカルは衛兵隊士らと真摯に向き合おうとしていた。

 そんなある日、国民会議場の扉が封鎖される事件が起こった。新聞記者のベルナール(蓮水ゆうや)やその妻のロザリー(実咲凜音)、ロベスピエール(澄輝さやと)ら、憤る市民たちの思いを知ったオスカルは、アランたちに扉を開けるよう指示。激怒したブイエ将軍が、衛兵隊士らを逮捕するよう叫ぶも、オスカルはその身を挺して衛兵隊士たちを守るのだった。

 緒月さんは毎公演、渋い役どころで胸に迫る演技を見せてくれますが、無頼にふるまいながらも人情にあついアランは、そんな緒月さんの魅力を最大限に生かしています。役替わりではアンドレも演じますが、どちらの役でも、同期・凰稀さんとの強い信頼関係が感じられるのではないでしょうか。

 衛兵隊士の愛月ひかるさんや風馬翔さんらの熱さも見逃せません。特に蒼羽りくさんは、目の不自由な妹イザベル(愛花ちさき)を思う優しい兄の一面も見せながら、粗野に、情熱的に演じています。

(4)蓮水:スマートで優しく、実咲:佇まいに存在感

2014年5月16日更新
写真:「ベルサイユのばら」より、ベルナール役の蓮水ゆうや(写真左)、ロザリー役の実咲凜音=撮影・岸隆子「ベルサイユのばら」より、ベルナール役の蓮水ゆうや(写真左)、ロザリー役の実咲凜音=撮影・岸隆子

 そんな荒くれ者たちの前に現れるオスカルは、美しすぎて高貴すぎて、明らかに場違いな人。水色の軍服に白いマント、サッシュがピンクというのがまたまぶしいほどに愛らしくて、オレらを馬鹿にするな!という衛兵隊の怒りにも思わず納得です。なのにアランを剣で倒してしまう強さは誰もが認めざるを得ず、ますます兵士たちの心を頑なにしてしまいますが、最初の印象が厳しければ厳しいほど後の感動を呼ぶ、これこそがオスカルを一目で表すもっとも印象的なシーンかもしれません。

 登場人物の中で最高に憎らしいブイエ将軍。登場のたび、オスカルに対して女性を馬鹿にしたパワハラ発言連発ですが、宙組組長の寿さんが演じると、それもまたカッコいいと思わせてしまうのが悔しいではありませんか。

 今回、初めて導入された国民会議場前のシーンは、平民たちのことを本気で考えるオスカルに、アランたち衛兵隊が感動し、部下としてついていくきっかけとなっています。やや冗長感は否めませんが、ベルばら40年の歴史の中では、常に新鮮さも求め、こうして新しい場面が増やされたり、工夫を重ねられて続いてきたのですね。

 ベルナールを演じる蓮水さんとイザベル役の愛花さんは、この公演で退団です。スマートで優しさが感じられる2人の演技は、いつも宙組生らしさにあふれていました。

また、オスカルのおしゃまな姪、ル・ルー役のすみれ乃麗さんも同様に退団です。宙組のお芝居を真ん中で支えてきた中堅スターたちが一度に辞めることは、とても残念でなりません。

 トップ娘役の実咲さんは、ベルナールの妻ロザリー役。オスカルを慕い、その身をいつも案じています。地味な役柄ではありますが、佇まいには品と存在感が感じられるのはさすが。まっすぐな女性を清楚に演じ、銀橋のソロやエトワールでも美しい歌声を響かせていました。

 国民会議場事件を知ったジャルジェ将軍は、激怒のあまり我が子であるオスカルに剣を向けますが、アンドレがとっさにその身を投げ出し、オスカルを守ろうとします。今までずっと舞台上にはいたものの、ここでようやくアンドレが表に出てきました。オスカルへの想いを独白し、「白ばらのひと」を熱唱しますが、ちょっと唐突感も。幼い頃から一緒に育ってきた2人なので、もう少しそのあたりは描いて欲しかったような気もします。

 そして、いよいよペガサスに乗った凰稀さんが登場し、1幕のクライマックスを迎えます。空飛ぶペガサスは過去にも2度出てきましたが、今回は翼や首も稼働し、より精巧なつくりに。全身金色の衣装に身を包んだ凰稀さんを乗せたペガサスが銀橋の上までせり出し、2階席の高さまで舞い上がる様子には、お客様も大喜び間違いなしでしょう。

(5)朝夏:優しく切なく、静かな情熱をにじませて

2014年5月16日更新
写真:「ベルサイユのばら」より、アンドレ役の朝夏まなと=撮影・岸隆子「ベルサイユのばら」より、アンドレ役の朝夏まなと=撮影・岸隆子

 1幕は今までにはなかった構成で、新しいシーンも加えながら進んできましたが、2幕は「毒殺未遂」「今宵一夜」「バスティーユ」など、アンドレが存在感を増しながら、お馴染みのシーンが連続していきます。

 アンドレを演じる朝夏さんは、経験を重ねてきたことで包容力が増し、力強い発声にも説得力があり、歌唱力も着実に上昇。押し出しの強いタイプではありませんが、静かな情熱をにじませていて、優しくも切ないアンドレ像を築いています。フィナーレでの黒燕尾ダンスでも、正統派でスマートな動きに目を奪われますし、このところ急速に頼もしさを増していて、今後がますます楽しみになりました。

 抑圧された市民の苦しみに耐えかねたオスカルは、とうとう軍隊と市民が衝突するパリへの進駐を決意。家族やジェローデル、ロザリーらの強い反対にもその意志は揺らぐことなく、パリの自由、平等、友愛のため、その身を捧げようとします。貴族として何不自由なく生きながら、あえて戦場に赴く高潔な精神を育てたのは、紛れもなくオスカルを支えてきた人たち。オスカルを大切に思う彼らの愛と葛藤もまた、胸を打たずにいられません。

 幼い頃から喜びも悲しみも分かち合いながらともに育ったアンドレは、そんなオスカルを守る事だけを考えて生きてきました。かつて受けた目の傷が視力を奪ってもなお、死ぬまでそばにいることが、彼にとっての使命だったのです。

 けれど男として育てられ、強くたくましく生きてきたオスカルは、アンドレの想いにはまったく気づいていません。ふたご座のカストルとポルックスのような関係に一石を投じたのが、ジェローデルからのオスカルへの求婚でした。

 オスカルとアンドレ、かけがえのない互いの存在が、恋という別のステージへと移行し始めながら、無情にも時の流れは容赦なく彼らを飲み込んでいきます――。

 凰稀さんのオスカルはとにかく美しく、そして凛々しい。フェルゼンに恋するエピソードがないことで、女性らしさがさらに封印され、強さを前面に押し出した役作りとなっています。いつもはクールな印象の凰稀さんがかつてないほど情熱的に、体当たりで演じているよう。特にアンドレの死後、燃え上がる「バスティーユ」の場面は圧巻で、宙組を率いるトップスターとしての自信と貫禄に溢れ、まぶしいほどに輝いていました。

 フィナーレもガラリと趣向を変え、これまで2番手格の男役が中心となっていた「薔薇のタンゴ」と呼ばれるナンバーを、凰稀さんがオスカルのまま、センターで踊ります。これは今回、演技指導にも入っている、かつての名オスカル役者、榛名由梨さんが踊ったバージョンとのこと。芝居だけでなく、ダンスでも熱気ある指導が行われたようです。

 さらに、黒燕尾もオスカル風で。ブロンドのロングヘアを無造作に巻き上げ、男役の補正をしないままで黒燕尾を着こなし、途中で朝夏さんが髪を止めていたピンを外すという心憎い演出も。芝居の設定がそのままショーにも生かされているようで、こちらも新鮮でした。

 40年という歴史を刻むベルばら。いつ見ても、何度見ても感動してしまうなんて、フランス革命の話だというのに、もはや日本人の心のふるさとなの?

 宝塚歌劇が今後110年、120年と年月を重ねても、ベルばらだけは永遠に上演され、人々の心を打ち続けるのでしょう。“永遠の少女”たちにとって、オスカルはやはり“究極のヒーロー”なのかもしれません。

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    neko Chan 發表在 痞客邦 留言(0) 人氣()