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ジェットラグプロデュース「罠(わな)」が新宿・紀伊國屋ホールにて上演された。主演は元宝塚歌劇団の緒月遠麻、脚本・演出を山崎洋平が手がけた。(演劇ジャーナリスト・中本千晶)

 

 開演前の舞台には、アパートの一室の外観のようなセットが組まれている。どしゃ降りの効果音が不安感をかき立て、窓からのぞき見える部屋の中で、これから事件が起こることを予感させる。

 緒月演じる遥は女優で、目下同居中の役者・直哉(榊原徹士)との結婚を明日に控えた身だ。そんな遥の元に突然、4人の女性が押しかけてくる。4人は「直哉の友人」と称し、直哉の結婚を祝うサプライズのために遥にも協力して欲しいと言うのだが、どうも怪しい……。さて4人のもくろみは? そして遥はどうなってしまうのか?

 この作品、宝塚時代は演技派として鳴らした緒月の「初主演」作でもある。緒月自身が「脚本の面白さにほれ込んだ」という作品で、女優の遥を“女優1年目”の緒月がどのように演じてみせるのか? 注目の一作の初日の模様をお伝えしよう。

(1)二転三転、いや四転五転のどんでん返しが小気味良い


写真:「罠」公演から=撮影・梅沢かおり(ジェットラグ提供)「罠」公演から=撮影・梅沢かおり(ジェットラグ提供)

 この作品、一義的には「サスペンスもの」といっていいのだろう。二転三転どころではない、四転五転のどんでん返しがこれでもかといわんばかりに続く。女優の遥は一見小気味良いが実は女の怖さも持ち合わせているし、直哉は遥のヒモのような状況で暮らしている、いわゆる「だめんず」だ。

 2人のアパートに押しかけて来たのは、ラウンジバーで働く佳代(華耀きらり)、さえない女優の麻衣(井端珠里)、舞台の裏方を務める早苗(廣瀬響乃)、モデルのるり子(藤田奈那)。「オンナ、微笑(ほほえ)みながら牙をむく」というキャッチフレーズのとおり、4人の女性たちも皆、凡庸さや弱さ、醜さ全開の「嫌な女」たちである。

 だが、迫真の芝居から垣間見えるそれぞれの個性が面白く、「嫌な女にもいろいろなタイプがあるものだな」と妙なところに感心させられてしまった。冷静にみると随分と暗くて重い話である。それなのに、なぜかそう感じさせない。随所で笑ってしまうのだ。さっき笑ったかと思うと、ゾクッとさせられる。コメディーとサスペンスの間を行ったり来たりである

(2)なぜか笑ってしまう、緒月の絶妙なコメディーセンス

2016年1月21日更新
写真:「罠」公演から=撮影・梅沢かおり(ジェットラグ提供)「罠」公演から=撮影・梅沢かおり(ジェットラグ提供)

 このうちサスペンスな部分、見事などんでん返しの連続は脚本の力だろう。だが「笑い」の部分はキャストの力、とりわけ緒月の絶妙なコメディーセンスに負うところが大きかったように思う。

 脚本に描かれたセリフ自体は何の変哲もない言葉だ。それなのに、緒月が話すとなぜか笑ってしまう。緒月が主演と決まってから脚本にもコメディー色が強まったと聞いたが、そこまで計算し尽くして書かれたとしたら、これは見事な宛て書きというほかはない。

 逆に、下手な役者が話すと引いてしまいそうなベタなギャグもあったが、これまた素直に笑えてしまうのが不思議だ。要所要所で宝塚での男役経験者ならではの凛々(りり)しさも見せるし、「ベルばら」を彷彿(ほうふつ)とさせるオーバーアクションで「客席の期待どおり」の笑いも取ってみせる。

 もし主演が緒月ではなかったとしたら、もう少し重苦しい作品になってしまったのではあるまいか? 緒月の持ち味のおかげで、この作品の明暗のバランスがうまい具合にとれている。その意味で、まさに適材適所なキャスティングだったと思えた。

(3)笑いと怖さの両極に、密度濃い1時間40分


写真:「罠」公演から=撮影・梅沢かおり(ジェットラグ提供)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 笑いと怖さの両極を行ったり来たり。その触れ幅が最大になったところで幕切れとなる。幕あい休憩なしの1時間40分は怒濤(どとう)のように過ぎてしまった。最初公演時間を聞いたときは短いなと思ったのだが、終わってみると「密度が濃い」という意味で決して短くはない1時間40分だった。

 カーテンコールでの緒月の慣れない感じの初々しいあいさつを聞いて、そういえばこの作品は緒月にとっての「初主演」だったことを思い出した。宝塚時代に主演経験がある人は、こうしたあいさつの場数も踏んでいるから手慣れたものである。だが、緒月は意外にも新人公演や小劇場公演も含めて主演の経験がない。どうりであいさつも初々しい感じになるわけだ。

 宝塚を卒業したOGたちがたどる道はさまざまだが、緒月がこれから切り開いて行くであろう道筋は、他の誰もまねできないものになるのではないだろうか? そんな楽しい予感に胸を躍らせつつ、緒月らしいユニークな初主演デビューに心からの拍手を送りたくなった

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