写真:「1789 ―バスティーユの恋人たち―」公演から=提供・東宝演劇部「1789 ―バスティーユの恋人たち―」公演から=提供・東宝演劇部
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フレンチ・ロック・ミュージカル「1789―バスティーユの恋人たち―」が帝国劇場で上演されている(大阪公演あり)。フランス革命の民衆と宮廷を描いた群像劇で、激動の時代のなかでも輝く愛を描いている。(フリーランスライター・岩村美佳)

 

 農民で革命に身を投じる主人公ロナンを小池徹平と加藤和樹が、フランス王太子の養育係でロナンと恋におちるオランプを神田沙也加と夢咲ねねが、王妃マリー・アントワネットを花總まりと凰稀かなめが、それぞれダブルキャストで演じている。

 

 2015年に宝塚月組で初演された際、男役トップ龍真咲がロナンを、娘役トップの愛希れいかがマリー・アントワネットを演じたのに比べると、オランプがヒロインとして明確に浮き上がり、自分の意志で行動する自立した女性として描かれている。

 

 フランスでは「スペクタキュル」といわれる大型ミュージカルは、大会場で、先端のポップ・ミュージックに乗せて上演する。コンピューターで打ち込みされた録音を使うことも特徴だ。本公演も録音が使われているが、録音ならではの技術が生きた、ダイナミックな音になっている。

 

 若いエネルギーが前面に押し出された舞台。小池と加藤を筆頭に、古川雄大、上原理生、渡辺大輔らを中心とした革命をなしとげる若者たちが躍動する。対して、革命を抑えようとする王宮側の人々を、吉野圭吾、坂元健児、岡幸二郎らベテラン役者たちがスパイスを利かせ芝居を締め、さらにフェルゼンを演じた広瀬友祐が甘さを加えた。

 

 女優陣の好演も光る。神田と夢咲がオランプの信念と愛を、花總と凰稀が王妃の波乱に満ちた人生を、みずみずしくたおやかに見せた。さらに、ロナンの妹・ソレーヌを演じたソニンが、女たちを率い生命力を放っていた。

 

(1)作品の世界観をビジュアルで見せつける

 
 
写真:「1789 ―バスティーユの恋人たち―」公演から=提供・東宝演劇部

 主にパリと王宮のふたつの世界を行き来するように描かれている。パンフレットの演出家・小池修一郎の言葉を引用すると、「天に座するアントワネットと地に生きるロナン、その間で迷うオランプの3人を軸とする群像劇」とある。ロナンたちが革命に生きるパリは、全体的に土臭いくすんだ色使い。対する宮廷は色彩豊かで、きらびやかな世界だ。そのふたつの世界を視覚的に分断するのが、巨大なフレーム。ステージ幅いっぱいに、天井まで届くほどの大きさで、その中に映像を映し出したりもする。

 

 1幕前半、農村からパリに出てきたロナン(小池/加藤)が、革命を目指すプチブルジョアのロベスピエール(古川)、デムーラン(渡辺)と出会い、ともに革命を目指す兄弟だと意気投合する場面から、ベルサイユ宮殿の仮装パーティーへと転換する場面は、巨大なフレームを用いた、天と地を象徴するダイナミックな演出が際立つ。パリの街角では背景となっていたフレームが、彼らが意気投合する印刷所の場面では天井となり、そして、その天井の上にアントワネット(花總/凰稀)が登場し、フレームがおりてくると宮殿の世界へと転換する。作品の世界観が、ビジュアルで見せつけられる演出だ。

(2)それぞれの組み合わせならではの化学反応

写真:「1789 ―バスティーユの恋人たち―」公演から=提供・東宝演劇部
 

 3役のダブルキャストの全員を見ることができた。ロナンとオランプや、オランプとアントワネットなど、組み合わせによっても印象が変わってくるのがダブルキャストのだいご味。キャストそれぞれの印象とともに、その組み合わせならではの化学反応にも少し触れてみる。

 

 小池は、ロナンが農民出身で、プチブルジョアの革命家たちとは育ちが違うんだという背景がよく表れていた。地をはって生きてきた粗野な若者感が出ていて、生命力にあふれていた。感情から動く無鉄砲さがロナンらしい。加藤は、素直さと熱さが届いた。物語の冒頭に父親を殺されるところから、革命に、オランプに出会い、直感と素直さで動いていく、真っすぐに生きるロナンを熱く演じた。

 

 神田はヒロインとしての安定感がある。どの歌も柔軟に聞かせ、華やかさと強さを併せ持つオランプにぴったり。加藤と神田の組み合わせで見たが、ふたりが歌う「この愛の先に」が特に良かった。アーティストとしてロックなナンバーを歌っているふたりならではのハーモニーで聞き応えがあった。

 

 夢咲のオランプは凛(りん)とした強さがいい。「いつも壁にぶつかりながら」というオランプの真っすぐさが良く出ている。宝塚で6年娘役トップとして活躍し、様々な役を見たが、個人的には一番良さが出ていると思った。「1789」の世界観に合っていて、衣装も美しく着こなし、生き生きと息づいている。アントワネットへの畏怖(いふ)の念も自然。宝塚の作られた感じが少し抜け、夢咲自身の魅力が加わった印象だ。

(3)花總は神々しく、凰稀は違和感なく

 
写真:「1789 ―バスティーユの恋人たち―」公演から=提供・東宝演劇部
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 花總は、オーストリア王家に生まれ、フランス王家に嫁いだ王妃だと納得させる希有(けう)な役者。王家の血筋を演じさせたら、やはり右に出るものはいないと改めて感服した。仮装パーティーを楽しむ姿は無邪気で、フェルゼンを思う姿は愛らしく、とにかく可愛い。革命によって狂わされていく運命を、フェルゼンを愛した天罰と考えることで納得しているよう。最後にすべてをさとり、受け入れる姿は、神々しささえ感じた。さらっと語るようで、言葉の重さがずんと響き、心に残る。

 

 対して凰稀は、より感情の変化をていねいに見せた。とにかく芝居が好きだという凰稀が、ていねいに作り上げたのだろうと想像する。アントワネットが、天真らんまんに遊びに興じ、フェルゼンへの恋に身を焦がし、子供たちを愛し、家族を慈しむ。病弱な王太子が亡くなった嘆きや、革命に驚き、王妃として覚悟をしていく感情の変化が見事。特に、王妃への忠義とロナンへの愛の間で悩むオランプに、愛がどれほど素晴らしく大切なものかを説く場面が心打たれる。宝塚退団後第1作目で、ここまでなんの違和感もなく、女性らしい芝居をする元男役トップはいなかったのではないだろうか。

 

 ふたりと組む広瀬のフェルゼンが美しく、マントを翻しさっそうとアントワネットの元に現れる姿がかっこいい。歌声も甘く、デュエットも聞かせた。宝塚で「ベルばら」を見ているような、恋人たちの麗しさも見どころだ。「エリザベート」「1789」と小池(修一郎)に抜擢(ばってき)された広瀬が、期待に応えた。2017年の「ロミオ&ジュリエット」では、渡辺とともにティボルト役が決まっており、今後も楽しみだ。

(4)若さと今風な要素が際立つ、新しい作品

 

写真:「1789 ―バスティーユの恋人たち―」公演から=提供・東宝演劇部

特に2幕はスピード感があって、あっというまにエンディングへと展開していく。2幕冒頭は、三部会が機能しないと知った市民たちが、自身の議会を作ると球技場を目指す場面からはじまる。幕が開くと同時に客席の扉が開き、客席通路をその道として、舞台へ登っていく。革命に狂う人々の爆発した感情の熱を間近で体感し、そのまま物語へと引き込まれていく。

 

 この球技場の場面、革命を目指す市民たちが歌い、踊るナンバーが続く。「街は我らのもの(リプライズ)」「誰の為(ため)に踊らされているのか?」「革命の兄弟~街は我らのもの(リプライズ)」とロックな激しいナンバーが畳み掛けるように続く。アンサンブルのアクロバットも交えた激しいダンスは、市民の増幅するエネルギーを表している。足で踏みならす音も体に響いてきて、観客の感情も高ぶる。

 

 特にロベスピエールとして市民を率いる古川がいい。「ロミオ&ジュリエット」の壊れてしまいそうな繊細なロミオや、「レディ・ベス」のつかみどころがなさそうで切れ味鋭いフェリペ、「ファースト・デート」のオネエのレジーなど、記憶に残る役があるが、人々の先頭に立って力強く率いる姿は勇ましく、新たな魅力を発揮していた。

 

 そして、特筆すべきはソニン。つい先日、「第41回菊田一夫演劇賞」を受賞し、まさにノリにノっている。ソニン演じるソレーヌを中心にしたナンバー「夜のプリンセス」「世界を我が手に」は鳥肌もの。父を殺され、兄がパリに発ち、途方に暮れたところから、パリに出て、娼婦(しょうふ)に身をやつしながらも生き延び、仲間に出会って革命に燃え、女たちの先頭に立つ……3時間の物語で、激動の時代を生きるソレーヌの変化を存分に示した。

 

 帝国劇場で上演されてきた大型ミュージカルのなかでも、若さと今風な要素が際立つ、新しい作品。新たな時代の幕が開いたと確信して劇場をあとにした。

 

 

 

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    neko Chan 發表在 痞客邦 留言(0) 人氣()