宙組公演のミュージカル「白夜の誓い ―グスタフⅢ世、誇り高き王の戦い―」が、11月7日、宝塚大劇場で初日を迎えました。スウェーデン国王グスタフⅢ世の波乱に満ちた生涯を描いた、トップスター凰稀かなめさんのラストステージ。宝塚らしい華やかな芝居とショーで、男役の集大成を飾ります。(フリーライター・さかせがわ猫丸)

 凰稀さんは2012年8月に、大劇場公演「銀河英雄伝説@TAKARAZUKA」で宙組トップスターに就任。モデルのようなルックスでどんな衣装も華麗に着こなし、美貌(びぼう)のトップとして人気を誇ってきました。最後に演じるのは、スウェーデン国王グスタフⅢ世、ロココの寵児(ちょうじ)として北欧史にその名を残した人物です。命をかけて国を守り、民から愛されながらも、王ゆえの孤高の美しさを感じさせるのは、宙組トップとしての姿とも重なるよう。

 凰稀さんと同期でグスタフの幼なじみ、アンカーストレムを演じる緒月遠麻さんもこの公演で退団します。凰稀さんのトップ就任と同時に雪組から組替えし、息もぴったりの様子から、ファンの間には「テルキタ萌(も)え」(テルは凰稀さんの愛称、キタは緒月さんの愛称)なる現象も起こっていたとか。そんなニーズにこたえるかのように、お芝居でもショーでも2人のシーンがふんだんに用意されていました。

 トップ娘役の実咲凜音さんは、グスタフと政略結婚させられるデンマークの王女ソフィア。次第にグスタフに惹(ひ)かれながらも、その思いを胸に閉じ込める、けなげな姿を切なく演じています。

 次期トップ就任が発表された朝夏まなとさんは、スウェーデンの近衛士官長リリホルン。一時は悪い大臣に脅されスパイ活動に走るものの、やがてグスタフの信頼厚い部下として活躍します。

 芝居・ショーともに退団仕様の演出がいくつもちりばめられ、朝夏さんと実咲さんの次期トップコンビお披露目のようなシーンもあり、別れと未来を感じさせた舞台でした。

凰稀さん演じるグスタフは、きらびやかな宮廷服を次々と着こなし、少女漫画の王子様そのもの。絶えずそばにいる親友アンカーストレム役の緒月さんが野性的なだけに、その対比も手伝って、ヒロインかと見まごう美しさです。宝塚ならではの華やかさを全身で証明する、凰稀かなめの真骨頂ここにあり!?

――スウェーデンには語り継がれるひとつの伝説があった。まだデンマークに支配されていた時代、白い鷲(わし)から授かった黄金の剣で独立を勝ち取り、王となった若者ヴァーサ。彼が城の奥深く納めた剣は、この国を救う王のみが手にすることができるという――。

 1770年、幼い頃からその伝説を聞きながら育ったスウェーデンの皇太子グスタフは、身分を隠し、幼なじみのアンカーストレムとともにパリに遊学。自由な思想に触れながら、エグモント伯爵の未亡人イザベル(伶美うらら)とのほのかな恋に酔いしれていた。そんな時、国王である父が亡くなった知らせが飛び込んでくる。グスタフはイザベルに必ず迎えに来ることを約束し、帰国の途につくが、山中で農夫ニルス(七海ひろき)らの襲撃にあい、そこで圧政に苦しむ平民たちの現実を知るのだった。

 グスタフはパリ暮らしで、自由なフランス貴族たちに影響されていました。中でも聡明(そうめい)で進歩的な考えを持つイザベルには心を奪われ、彼女との時間に至上の喜びをかみしめていたのです。イザベルを演じる伶美さんはこのところ、シアター・ドラマシティ公演「翼ある人びと」、バウホール公演「SANCTUARY」と連続してヒロインを演じ、今公演ではポスターにも登場するなど、その勢いはとどまるところを知りません。歌やダンスの技術面ではまだ成長段階ですが、豪華なドレスを着こなす美貌と品の良さは宝塚の娘役らしさにあふれています。グスタフとイザベルは互いに感情をあらわにすることなく、深く静かに心を通わせていましたが、2人の恋は国の情勢によりもろくも引き裂かれてしまいました。

しかし、グスタフのことを一番思っているのはアンカーストレムかもしれません。幼い頃からともに育ち、グスタフが王として国を治めることになっても、常にそばで支え、時には厳しく忠告もする、かけがえのない存在なのですから。演じる緒月さんは強くカールした黒髪のワイルドなルックスが印象的で、争いを好まず平和を望むグスタフとは反対に、軍事力を強化することに重きを置いています。やがて2人の考え方の違いが溝を生むのですが、その愛憎もまた、相手役のよう!?

 グスタフとアンカーストレムがパリでパーティーを抜け出しバルコニーで語るシーンや、グスタフが艦隊を率いてロシアと戦うシーンなどでは、凝った装置に目がいきましたが、やはり舞台芸術家の松井るみさんが参加していました。ダンスの振り付けもしかり、「ほかと何かが違う」と思わせる職人仕事は、見ごたえがあります。

 山中でグスタフを襲った農夫たちのリーダー、ニルス役の七海さんはオケボックスから銀橋にカッコよく登場です。厳しい年貢に苦しめられている不満から貴族を襲おうと計画するのですが、荒々しさがイケメン加減を増幅させています。七海さんはバウホール公演「the WILD Meets the WILD」で主演した時や、大劇場公演「モンテ・クリスト伯」のヴァンパ役もそうでしたが、荒ぶれた発散系の役が似合いますね。しかしそんな彼ら大勢を、2人で簡単にやっつけてしまうグスタフとアンカーストレムの華やかな軍服姿も見逃せません。

――スウェーデンでは親ロシア派の大臣クランツ(寿つかさ)が、次期国王にはグスタフではなく、自らの傀儡(かいらい)となる者を仕立てようと画策。近衛士官長のリリホルン(朝夏)に対し、父親や兄を人質にスパイを命じ、グスタフの動向を探らせていた。

 1772年5月、新国王グスタフⅢ世の戴冠(たいかん)式が執り行われたが、その席でクランツは「ロシアに従う国家の方針に反するなら退位もありうる」とグスタフを恫喝(どうかつ)、さらにデンマーク王女のソフィア(実咲)との政略結婚まで迫った。そんな中、クランツたちがデンマークから巨額のわいろを受け取っていたことが発覚。グスタフは、実権を取り戻し、スウェーデンをよみがえらせることを決意し、アンカーストレムらとともに立ち上がる。果たしてグスタフは“ヴァーサ王の剣”を手にすることができるのだろうか……。

 敵役クランツを演じる寿さんは、組長さんながらスマートなイケメン役者のイメージが昔から変わりません。今回もとことん憎らしい悪者ぶりに色気も加えて、ますますステキです。

 そんなあくどいクランツに操られるリリホルン役の朝夏さんは、ブロンドの髪もまぶしい若き近衛士官長で、軍服姿をりりしく着こなしています。前半はクランツから父や兄を盾に脅されながら苦悩し続けているのですが、どういう人物なのか印象が薄いまま展開してしまうので、最初にリリホルン自身が近衛士官長として夢を抱いていた時代のエピソードなどを入れた方が、もう少しわかりやすかったかもしれません。ノーブルでクセのない爽やかさが魅力の朝夏さん。今はまだおとなしい印象ですが、歌って踊れる正統派男役トップとして大輪の花を咲かせる日が楽しみです。


トップ娘役の実咲さんはデンマークの王女ソフィアで、誇り高く、スウェーデンに嫁いできました。グスタフから不本意な政略結婚であることを告げられますが、それは彼女にとっても同じこと。けれど次第に彼の優しさと強さに気づき、愛するようになります。透き通って伸びのある歌声は耳に心地いいですし、思いを告げることなくグスタフの無事を祈るソフィアのいじらしさには胸打たれずにいられません。情熱的に愛しあう設定が少ないトップコンビではありましたが、いつも確かな実力で凰稀さんを陰でしっかり支えていたのが印象的でした。実咲さんはそのまま、次に就任する朝夏さんの相手役もつとめます。これまでとはまた違った魅力が引き出されるかもしれませんね。

 グスタフは当時のスウェーデンには進歩的過ぎる考え方の持ち主でした。でもそれは国の平和と国民の幸せを願うという、今の時代なら当たり前のこと。しかしアンカーストレムはそんな平和主義は現実的ではないと、軍備の増強を進言します。グスタフは国民を、アンカーストレムは国を、それぞれ守りたいものの根本は同じはずなのに、互いを信頼しあっているはずなのに、相いれない怒りは、やがて思いもよらない悲劇へと追い詰められていきます。

 パリに残されたイザベルは、アンカーストレムとの友情は…国王であるがゆえのジレンマに苦悩するグスタフ。低体温なイメージの凰稀さんが、静かに炎をたぎらせる姿が印象的です。ラストはもちろん、凰稀さんの退団に重なる感動のシーンへ。たくさんのエピソードはドラマチックというよりも、淡々と表現されていましたが、豪華なセットと衣装に彩られ、昔ながらの宝塚らしさにあふれた作品です。

2幕は、グランド・ショー「PHOENIX 宝塚!! ―蘇る愛―」。題名のフェニックスは凰稀さんの名前をかけているのでしょうか。サヨナラ公演ではおなじみの藤井大介先生の作品です。トップ就任以降、大劇場では一本ものが多かっただけに、ラストステージではショーをたっぷり堪能させてもらいましょう!

 「伝説の宝鳥」のシーンでは、不死鳥フェニックスを盗もうとする怪盗カナメール(凰稀)が、牧師、石油王、シェフ、老人、さらにスリットが深く入ったドレスを着こなす美女などに次々変身し、コミカルな場面で客席も大盛り上がり。ここでも、緒月さん扮する刑事キタロールと同じ衣装で踊るシーンがあり、テルキタ要素もふんだんに盛り込まれています。

 最後の群舞の後、一人残った凰稀さんの背後の大階段に「OUKI」「KANAME」「PHOENIX」と電飾文字が浮かび上がるドラマチックな演出も。退団を意識した歌詞の曲も多く、ファンならずとも涙を誘われるのではないでしょうか。

 いったん緞帳(どんちょう)が下り、フィナーレの幕が上がると、朝夏さんと実咲さんが2人でエトワールを務め、次期トップコンビのシーンで締めるのも粋な試みでした。

 それにしても一番印象に残ったのは、やっぱり「テルキタ」。芝居もショーも、最後まで徹底したコンビ展開が、今の宙組らしさを象徴していたかもしれません。

arrow
arrow
    全站熱搜

    neko Chan 發表在 痞客邦 留言(0) 人氣()