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宙組公演「銀河英雄伝説@TAKARAZUKA」が、宝塚大劇場で8月31日、初日を迎えました。1982年の刊行以来、シリーズ累計1500万部を突破するSF小説「銀河英雄伝説」は、アニメ・漫画・ゲーム・舞台にも広がり、多くの熱狂的なファンを獲得してきました。今回はこの名作に「@TAKARAZUKA」と銘打つ独自の演出を加え、待望のミュージカルとして上演。トップスターに就任する凰稀かなめさんとともに、新生宙組が挑む、超大作のお披露目となりました。(フリーライター・さかせがわ猫丸)

(1)凰稀は、まさにリアル・ラインハルト

2012年9月5日

写真:凰稀かなめ

ラインハルト役の凰稀かなめ=撮影・岸隆子

 「銀河英雄伝説」は、SFファンタジーながら歴史小説を思わせる重厚なストーリーと、個性あふれる登場人物たちが魅力の大ベストセラー。さらにコミックス版では、彼らが少女漫画級の美しさで描かれていて、特に主人公ラインハルトはブロンドヘアをなびかせ、豪華な軍服を着こなす、さながら「宇宙の王子様」。いつか宝塚で上演してほしい、という声が多かったのもうなずけます。この公演でトップとなる凰稀さんは、長身スレンダーの美貌を最大の武器とするだけに、ラインハルトは最高のハマり役となりそう。今回、トップ娘役に就任する実咲凜音さんとともに、新生宙組が華やかにスタートしました。

 ――核戦争で汚染された地球を脱出した人類は、2801年、銀河連邦を設立。それから300年後、ゴールデンバウム王朝の圧政に耐えかねた人々が、新たに自由惑星同盟を築く。そうして銀河帝国VS自由惑星同盟の終わりなき宇宙戦争が始まった。銀河帝国を率いるのは、常勝を誇る戦の天才ラインハルト(凰稀)。自由惑星同盟には、不敗の魔術師と呼ばれる軍人ヤン(緒月遠麻)。アスターテ会戦では圧勝した帝国軍だったが、同盟軍を全滅から救ったヤンという存在が、ラインハルトの胸に強く印象を残す。

 幕開きは悠未ひろさんが登場。背景となる基本情報を語り、スクリーンに人物相関図も映し出されるので、だいたいの知識を最初に得ることができます。登場人物の名前がカタカナで長く難解だったりしますが、だいたいの音で顔と一致させておきましょう。

 凰稀さんはまさにリアル・ラインハルト。ひときわ目元がキラキラしたメイクに、ロマンチックな金髪ウエーブロングヘア、ラメの軍服を長身・小顔で華麗に着こなして、移動の際は必ずマントをブワサッとひるがえし、一瞬にして夢の世界へいざなってくれます。ひたすらクールに戦闘の指揮をとりますが、心の中ではいつか皇帝を倒し、ゴールデンバウム王朝を手にいれようとする野心が燃えたぎっています。

(2)緒月、爽やかにライバル役を

2012年9月5日

写真:緒月遠麻

ヤン役の緒月遠麻=撮影・岸隆子

 一方、ライバルのヤンは本来、歴史学者志望のおおらかなのんびり屋。学費を返すため仕方なく勤める軍人で才覚をあらわしてしまい、戦闘リーダーとして否応なく活躍させられています。ヤンを演じるのは、雪組から異動してきた緒月さん。ふだんはどちらかといえば、曲者のオジサマなどが似合う濃いタイプですが、今回は非常に爽やかな役作りで、こちらが戸惑ってしまいそうなほど(?)幅広い演技力を見せてくれます。

 ラインハルトとヤンはまったく正反対のキャラクターです。「私は冷酷お耽美なラインハルト派」「私はちょっと抜けていても温かなヤン派」などと、女性の好みがきっぱりと分かれそうで、そんなところもこの物語を盛り上げているのかもしれません。今回の作品の主役はラインハルトなので、いずれ「ヤン編」が必ず作られるのではと予想…ならぬ期待もかかってしまいます。

(3)強く優しい幼なじみの朝夏

2012年9月5日

写真:朝夏まなと

キルヒアイス役の朝夏まなと=撮影・岸隆子

 ――アスターテ会戦の功績で元帥に任命されたラインハルトは、その任命式典で実咲さん演じるヒルデガルド(ヒルダ)と出会う。「あなたの元で国家再建に尽くしたい」と訴えてきたヒルダは、ラインハルトの心に響いた。式典後、幼馴染の部下キルヒアイス(朝夏まなと)とともに、皇帝(寿つかさ)の寵妃となった姉アンネローゼ(愛花ちさき)を訪れ、3人で過ごした幼い頃を思い出す。姉を強引に奪われた憎しみの記憶は、今の彼にとっての原点となっていたのだ。

 ヒルダは伯爵令嬢ながら、しっかりとした意志を持つ強い女性。ラインハルトを尊敬し、やがて自らも軍人となって、彼のサポート役を担うように。2人の熱い恋愛模様はありませんが、硬派なストーリーの中に時折ほんのり香る恋の予感がハートをくすぐってくれます。演じる実咲さんはまだ若いながら、確かな実力の持ち主。安定した歌声と演技力で、これからの凰稀さんをしっかりと支えて行きそうです。

 ラインハルトが唯一心を許すキルヒアイスには、花組から異動してきた朝夏さんが成長著しく、のびのびと演じています。キルヒアイスは絶えず奥に控えていますが、ラインハルトがぶれそうな時には諫言も。それは憧れのアンネローゼに託された、彼にとっての使命でもありました。キルヒアイスの中にある強さと優しさは、対立するはずのヤンとどこか似ています。そんな2人が互いにシンパシーを感じるシーンは特に印象深く、見ごたえがあるのでこちらもぜひご注目ください。

(4)蓮水と七海、バリバリの二枚目

2012年9月5日

写真:蓮水ゆうや・七海ひろき

ロイエンタール役の蓮水ゆうや(写真右)・ミッターマイヤー役の七海ひろき(写真左)=撮影・岸隆子

 ――数々の武勲を立てたラインハルトは、ついに元帥府を開く。ロイエンタール(蓮水ゆうや)やミッターマイヤー(七海ひろき)をはじめとする気鋭の士官たちに加え、参謀にオーベルシュタイン(悠未)を迎え、新たな一歩を踏み出した。だが皇帝の権力に群がる門閥貴族たちは面白くない。ラインハルトはそんな内なる敵と、ヤンを擁する自由惑星同盟と、双方との果てしなき戦いに挑む。アンネローゼを取り戻し、銀河帝国の頂点に立つために…。

 チーム・ラインハルトの中でも、ロイエンタールとミッターマイヤーは中心人物です。蓮水さんは黒髪オールバックでクールなロイエンタールが見事にはまり、特徴であるオッドアイもカラコンできちんと演出していて、ビジュアル的にも蓮水さん史上最高ではないでしょうか。愛妻家のミッターマイヤーを演じる七海さんも、もちろんバリバリの二枚目。彼らは特別な登場人物なので、ラインハルトの部下になる経緯を少しでいいから描いて欲しかったかも…。ほかにも、ビッテンフェルトの澄輝さやとさん、ケンプの蒼羽りくさん、ワーレンの愛月ひかるさん、ルッツの凛城きらさんら長身イケメン軍団が軍服で揃う迫力はこれぞ宙組の真骨頂。一人ずつ軽くソロを歌うシーンやダンスもふんだんにあり、ひたすら眼福でした。

(5)悠未、「あなたには私が必要だ」

2012年9月5日

写真:悠未ひろ

オーベルシュタイン役の悠未ひろ=撮影・岸隆子

 そんな中、他の軍人たちとは少し毛色が違う、いかにもクセがありそうなオーベルシュタインを演じるのが悠未さん。ラインハルトの参謀として切れ者ぶりを発揮しますが、こちらもバッチリはまっていました。ラインハルトに迫りながら「あなたには私が必要だ」と自分を売り込むシーンが妖しげで思わずドキドキ…。そびえ立つ高身長だけではない存在感が、研1から長く宙組を支えてきた大黒柱であることを改めて実感させてくれます。

 若手も活躍しています。ヤンの養子で利発な少年・ユリアン役の伶美うららさんも、今公演で注目の一人。潔くばっさり切った自前のショートカットがよく似合い、颯爽とした演技が光っています。もともと背が高く、凛々しい雰囲気を持っているので、男役になっていてもさぞカッコよかっただろうなあと思わせる娘役さんなだけに、今回はお得な気分にもなりました。

 銀河帝国と自由惑星同盟のどちらとも交易のあるフェザーン自治領のルビンスキー(鳳樹いち)とドミニク(大海亜呼)は、双方にうまく取り入りながら、狂言回し的にストーリーを誘導。セリフも歌もしっかりあって、重要な役柄です。

 自由惑星同盟で戦死者を賛美する演説を繰り返し、出世欲に燃えるトリューニヒト役の星吹彩翔さんの活躍も目を見張ります。モンチッチに似ているというキュートなルックスの実力派。前回の公演「華やかなりし日々」では、主人公の少年時代を演じ、強い印象を残しましたが、今回はスーツを着こなした狡猾な政治家。高い所から民衆を扇動しながら堂々と歌いあげるシーンでは着実な成長が感じられ、ますます頼もしくなりました。

 銀河帝国の権力争いにしのぎを削る貴族たち、ブラウンシュヴァイク役の一樹千尋さんとリヒテンラーデ役の磯野千尋さんは、さすが専科の貫録で芝居を引き締めます。そんな悪代官のような一樹さんに仕えるアンスバッハ・凪七瑠海さんもクールでスマートな役づくりが憎い。とにかく、ベテランから若手までが広く活躍しているのも嬉しくなりました。

 SF超大作と言っても、ラインハルトとキルヒアイスの深い友情や、ラインハルトとヒルダのほのかな恋、軍人たちと恋人の甘いシーンなど人間関係を全面に押し出し、宝塚らしい優しさにあふれていて、どんな年代の方でも楽しめそう。もちろん重要な宇宙での戦闘シーンも映像やレーザー光線で斬新に表現し、こだわりたいセリフなども再現されていますので、原作ファンも納得できる仕上がりになっているのではないでしょうか。

 今回、宙組は新トップコンビ就任と大異動で大きくメンバーも変わりましたが、それでも重厚なコーラスと長身イケメン軍団のカッコよさは健在です。奇しくも宙組の名にふさわしいSFファンタジー。凰稀さん率いる新生宙組が銀河へとはばたく姿を、ぜひ劇場でごらんください。

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    neko Chan 發表在 痞客邦 留言(0) 人氣()