宙組公演の宝塚グランドロマン「風と共に去りぬ」が、9月27日、宝塚大劇場で初日を迎えました。宝塚の100周年に及ぶ長い歴史の中でも、「ベルサイユのばら」と並ぶ代表作と言っても過言ではないこの名作が、宝塚大劇場で上演されるのは実に19年ぶり。5役に渡る役替わりも加え、オールドファンはもちろん、新しいファンにとっても待ちに待った公演となりました。(フリーライター・さかせがわ猫丸)

 クラーク・ゲーブルとヴィヴィアン・リーの2大名優が演じた映画はハリウッド史上に残る大ヒット作で、宝塚でも初の舞台化となった1977年の初演以来、公演回数1216回、観客動員数272万人を誇る、財産ともいえる作品となりました。榛名由梨、鳳蘭、麻実れい、天海祐希、真矢みき、轟悠ら、歴代名スターたちが演じてきた究極の男役レット・バトラーに、今回は宙組トップスター凰稀かなめさんが挑戦、これまでにない骨太の演技を見せました。

 対するスカーレットには、朝夏まなとさんが男役ならではの力強さで勝気なヒロインの魅力を発揮(役替わり/七海ひろき)。純矢ちとせさん演じるスカーレットII(役替わり/伶美うらら)が、彼女の本音を代弁するという面白さも健在で、2人のコンビネーションも光っています。

 この公演で退団する悠未ひろさんがアシュレ(役替わり/朝夏)を、その妻メラニーをトップ娘役の実咲凛音さんが演じ、主人公2人の激しさとは対照的に優しい空気感を醸し出します。また、レットの情婦ベル・ワットリングを演じる男役の緒月遠麻さんも強い存在感を示し、物語を引き締めました。

 個性的で魅力ある登場人物に名曲の数々、そしてなによりドラマチックなストーリーが、観る者の心をつかんで離しません。名作ゆえの求心力は、初演当時からまったく変わりありませんでした。

(1)凰稀レット、堂々たる魅惑のオジサマ

2013年10月8日
写真:「風と共に去りぬ」より「風と共に去りぬ」より、レット・バトラー役の凰稀かなめ=撮影・岸隆子

 この作品は、レット・バトラーとスカーレットという2人の強烈なキャラクターが柱となっています。黒めの肌に髭とオールバックの黒髪がトレードマークのレットはとにかくダンディーなオジサマで、その過剰な色気には困惑させられてしまうほど。男役として成熟していなければ絶対にできないであろう、とことん男くさい役です。

 演じる凰稀さんはトップお披露目公演だった「銀河英雄伝説」での少女漫画的王子様が最高にはまった美青年なだけに、レットは一見、合わなさそうですが、なかなかどうして。堂々たる魅惑のオジサマになっていました。トップになってまだ1年あまりですが、公演を重ねるごとに広がっていく役の幅を着実に自分のものにしながら、落ち着きと貫禄も増してきて、とうとうバトラーまで到達したか!と、感慨もひとしおに…。線の細さは否めないものの、それをカバーしてあまりある立ち姿の美しさはさすがです。

 葉巻をくゆらせる姿が似合う‘超大人’の男レットがほれ込むスカーレットは、激しい気性を持ち、わがままで自己中心的なのに時々ロマンチストという、キュートで魅力たっぷりなヒロインです。一筋縄ではいかない強さを表現するためか、歴代、男役が演じることが少なくなかったのですが、今回も男役の朝夏さんと七海さんが役替わりでつとめます。

 オープニングは、まず鳳稀さんが「さよならは夕映えの中で」を歌いながら、銀橋を渡ります。TCAなどのイベントでも頻繁に歌われる名曲なので、公演を観たことがない方でも耳にしたことがあるのではないでしょうか。ロングジャケットのバトラースタイルの美しさに、作品への期待も高まります。

(2)実咲メラニー、まさに聖母のような女性

2013年10月8日
写真:「風と共に去りぬ」より「風と共に去りぬ」より、メラニー役の実咲凛音=撮影・岸隆子

 ――1862年、南北戦争の開戦から1年後。夫を亡くしたスカーレットは、義妹メラニーと暮らすため、故郷タラを出てアトランタへとやってきた。かねてから想いを寄せていたメラニーの夫アシュレとの再会に胸をふくらませながら…。なぜならスカーレットの結婚は、アシュレとメラニーが婚約したことへの腹いせに行ったもので、彼女の想いはいまだくすぶり続けていたからだ。だが、到着したアトランタで真っ先に出会ったのはレットだった。軍需物資を運ぶことで暴利を得た無頼漢、そして、かつて樫の木屋敷のパーティーで、スカーレットがアシュレに愛を告白するところを目撃した人物でもあった。ただでさえ好ましくないところへ、無遠慮な態度で接してくるレットに、スカーレットはついに怒り出してしまう。

 南軍の軍需拠点となったアトランタは活気にあふれていました。誰もが勝利を信じて勢いづく中、未亡人であるスカーレットは喪服で静かに過ごしていることに耐えられません。そのうずうずしている様子からスカーレットの本性がすでにチラチラとのぞき始めますが、レットに出会ったことでますます心穏やかでない状況に。そこへスカーレットIIが登場し、彼女のモヤモヤを代弁していくのが、なかなか面白い展開です。

 実咲さん演じるメラニーは優しく控え目で懐深く、どんな人々をも包み込んでしまいます。ただ優しいだけではなく、困難にもゆるぎない強さを合わせ持つ、まさに聖母のような女性。トップ娘役にしては地味な役柄かもしれませんが、その上品な美しさで静かな存在感をしっかりと表し、のちにアシュレがメラニーをどれほど必要としていたかの説得力を高めています。

(3)緒月ベル、なかなかの美女っぷり

2013年10月8日
写真:「風と共に去りぬ」より「風と共に去りぬ」より、ベル・ワットリング役の緒月遠麻=撮影・岸隆子

 メラニーが持つ慈愛の深さに強く心を打たれた一人には、レットの情婦・ベルもいました。いやしい商売をしていることで、町の婦人たちから冷たくさげすまれていた彼女にただ一人、やさしく手を差し伸べたメラニーは、ベルにとっても特別な存在となったのです。

 ベルを演じるのは緒月さん。目の覚めるようなパキッとした黄色に黒のリボンをあしらった派手なドレスで、きつく巻いた髪が濃い顔立ちに映え、男役ながらなかなかの美女っぷり。人々からどんなにひどい扱いを受けても毅然と耐え、気高さを失わず、凛と背筋を伸ばす姿はとにかく美しい。見かけははすっぱな酒場女でも、皆と同じように街を愛し、心密かに病にたおれたメラニーの無事を祈る、ベルの清廉な心に胸を打たれました。

(4)悠未アシュレ、偽りの包容力がさすが

2013年10月8日
写真:「風と共に去りぬ」より「風と共に去りぬ」より、アシュレ役の悠未ひろ=撮影・岸隆子

 ――義捐金募集のバザー会場では、ダンスの相手を競売で競り落とすイベントが発表された。そこでレットは金貨150ドルでスカーレットを指名し、会場をどよめかせる。華やかな生活に戻りたい彼女もまた喜んでその手をとるが、アシュレの帰還を聞きつけるやいなや消えてしまうという自由奔放さにレットはますます魅力を感じ、強く惹かれていくのだった。

 アシュレと再会し、再び恋心が燃え上がるスカーレット。「南軍が敗北した時はメラニーの力になってほしい」と乞われてもなお抑えきれず自らの想いを告げるが、やはりそれはかなうはずもなかった。

 この公演で退団となる悠未さんが演じるアシュレ(役替わり/朝夏)は、誠実な好青年ではありますが、優柔不断でどこか頼りなささえ感じる男性。気の強いスカーレットがなぜ彼に惹かれてしまうのか、それこそが恋のなせる業なのでしょうか。ダイナミックな役柄の似合う悠未さんが、一生懸命なスカーレットを優しく受けとめてそうで、実はまったく受け入れない複雑なアシュレを繊細に演じています。男役の朝夏さん相手でも堂々たる偽りの(?)包容力を見せるのはさすがの一言。宙組一筋で、柱となって長く活躍してきた悠未さんの、これが男役の最後だなんて本当に残念でたまりません。

 喪に服す身でありながら、バザーと聞けば何が何でも参加したい。華やかな場でダンスを踊りたい…そんなスカーレットの欲望をすべて見透かすのが、もう一人の自分であるスカーレットIIです。同じスタイルでどこからともなく登場し、彼女の本音をズバズバ言い当て、白日の下にさらすという架空のキャラクターは、宝塚ならではの面白さかもしれません。演じるのは、実力派娘役の純矢さん。最近、めきめき歌が上達する朝夏さんと共に、美しいハーモニーを聞かせてくれました。

 ――戦況が悪化するにつれ、負傷兵たちの看護に耐え切れなくなり、逃げ帰ったスカーレットのもとへレットがやってきた。豪華なプレゼントを差し出し、彼女の愛を得ようとするが、その直接的な物言いにスカーレットは怒るばかりだ。

 そしてついに北軍がアトランタを侵攻。ここにいるのは危険だと悟ったスカーレットは身重のメラニーを連れ脱出を試みるが、もはや頼れるのはレットしかいない。激しい砲撃戦で燃え上がるアトランタの街を、レットは2人を馬車に乗せ、スカーレットの故郷タラに向けて手綱を取るのだった…。

(5)朝夏スカーレット、ふだんの男役を消し去る

2013年10月8日
写真:「風と共に去りぬ」より「風と共に去りぬ」より、スカーレットI 役の朝夏まなと(左)、スカーレットII 役の純矢ちとせ(右)=撮影・岸隆子

 「しんどい、疲れた、もうやだ」「綺麗なプレゼント、ラッキー!」。コロコロと気分が変わり、常に高飛車で、まるで現代のギャルのように屈託のないスカーレット。そんな彼女が好きなのはアシュレのような草食系青年で、レットのような肉食系おじさまは苦手でたまらないのでしょう。なのにレットはそんな彼女を面白がるように口説き、スカーレットがそれに翻弄されていちいち反応する様子が可愛らしく、観ているこちらもどんどん彼女に惹きつけられていきます。

 初日に演じたのは朝夏さん。丸顔に大きな瞳がドレス姿に映え、想像以上に可愛らしくて、声や演技にも違和感がありません。男役の良さを生かしたスカーレットの強さをしっかり表現しながら、愛するアシュレの前では乙女になってしまうしおらしさもにじませ、ふだんの貴公子風男役の気配を見事に消し去っていました。

 レットのおかげで命からがらタラに戻ったものの、故郷はすっかり焼け野原に。何もかも失ってしまったスカーレットは絶望の淵に叩き落とされながらも、乳母のマミー(汝鳥伶)と再会し、もう一度やり直そうと決意します。1幕の終わりに歌い上げる「明日になれば」は、宝塚史上に残る名シーンの一つです。

 戦争で何もかもなくなってしまったところから、スカーレットはどうやって立ち上がって行ったのでしょうか。メラニーを守りながら、アシュレへの愛は断ち切れたのか。そしてレットとの関係は…。

 当初、「レットってロマンチックのかけらもなくて、なんだかいやらしい男ね」などと思ってしまうのですが、実は包容力があって頼りになるし、実はすごくピュアな人? なんだか母性本能まできゅんとくすぐられるような…と、スカーレットのみならず、レットへの印象も変化していくことにも気づかされます。これはレットが無頼にふるまいながらもスカーレットのことを本当に愛していることが徐々に伝わってくるからかもしれません。

 それに気づくと、最初の自分の考えがなんて愚かだったのだろうと、ショックすら覚えてしまうのですが、それこそまさにスカーレットと同じ心境を辿っているではありませんか…。

 有名なラストシーンは何度見ても胸に深く突き刺さり、いつまでも抜けない「ガラスの棘」のように耽美な余韻を残してくれます。

 南北戦争に翻弄される人々、戦火の中を駆け抜けるレットとスカーレットの馬車、夕映えに広がるタラの大地など、作品の持つスケール感を、シンプルな照明や演出だけで巧みに表現。「君はマグノリアの花の如く」など、心に沁み入る名曲の数々。私も舞台で観たのはこれが初めてでしたが、やっぱり名作はいつの時代に観ても素晴らしい。あらためてそう実感した舞台でした。

 「タキシード・ジャンクション」や「セントルイス・ブルース」「ナイト・アンド・デイ」など、おなじみのショーも再現され、昔、夢中になっていたファンのみなさんの心もくすぐってくれます。

 暑さも一息ついて、芸術の秋を迎えるこの時期、2世代、3世代そろって、劇場に足を運んでみてはいかがでしょうか。

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    neko Chan 發表在 痞客邦 留言(0) 人氣()