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宝塚宙組公演「モンテ・クリスト伯」が、3月15日、宝塚大劇場で初日を迎えました。これまで数多く映画化や舞台化されてきた、アレクサンドル=デュマ・ペールの名作小説「岩窟王」を、宝塚らしい演出でドラマチックに描きます。身に覚えのない罪で投獄された男エドモン・ダンテスが、やがてモンテ・クリスト伯となって、自分を陥れた者たちに立ち向かう復讐劇。トップスター凰稀かなめさんと実咲凛音さんがこの重厚な世界観に挑みます。(フリーライター・さかせがわ猫丸)

 公演ポスターの凰稀さんは、絶海の孤島にそびえる監獄をバックに、髭をたくわえた眼光鋭い紳士。夢を運ぶフェアリーなタカラジェンヌからは想像できない容貌なのに、それがかえってゾクゾクするほど美しくて、吸い込まれそうです。観る前から強烈なインパクトでしたが、実際の舞台もその美と迫力はそのままに、見ごたえのあるお芝居が展開します。

 19世紀初頭、船長への昇進が決まった若き航海士エドモン・ダンテスは、恋人メルセデスとの結婚式を挙げ、幸せの絶頂にあった。だが突然、ダンテスは身に覚えのない容疑で逮捕され、孤島の監獄に投じられてしまう。彼を陥れたのは、貴族のフェルナン(朝夏まなと)、ダンテスの同僚ダングラール(悠未ひろ)、そして検事補のヴィルフォール(蓮水ゆうや)の3人だった。監獄で絶望の日々を送っていたある日、同じく罪なくして捕らわれていたファリア司祭(寿つかさ)との出会いから希望の光を得たダンテスは、自分を騙した者たちへの復讐を誓い、それが彼の生きる目標と化していくのだった―。

 地獄の底から「復讐」だけを頼りに這い上がるエドモン・ダンテス。クールで淡々とした印象の凰稀さんが憎悪に身もだえし、激しく感情をほとばしらせる姿は圧巻で、トップスターとしての輝きと貫禄をますます感じさせてくれます。ダンテスの恋人メルセデスを演じる実咲さんは確かな実力で、包容力ある演技を披露。

 朝夏さん、悠未さん、蓮水さんの極悪トリオも迫力たっぷりです。3人の表情・しぐさ・セリフの一つひとつに、男役の醍醐味である「黒さ」がにじみ出て、こちらも日々進化しそう。憎しみに囚われたダンテスを根気よく諌め、支え続けるのが、寿さん演じるファリア司祭と、緒月遠麻さん演じるベルツッチオ。彼らの叫びは、人間なら誰しも持つ心の闇に通じるものがあるかもしれず、じわじわと突き刺さってくるのが印象的でした。

 この物語のテーマは「復讐」だけではなく「寛容」と「希望」です。重いだけのストーリーではなく、胸に染み入るような余韻と感動を残してくれる、いい意味での裏切りを感じさせる作品でした。

 懐かしい名作シーンがぎゅっとつまったショー「Amour de 99!! ―99年の愛―」と合わせて、喜怒哀楽の面白さが存分に味わえる3時間です。

(1)悠未と朝夏、迫力満点のデュエット

2013年3月27日
写真:「モンテ・クリスト伯」より「モンテ・クリスト伯」より、ダングラール役の悠未ひろ=撮影・岸隆子

 幕が上がる前には、劇中の音楽が次々と演奏されるオーバチュアがあり、名曲揃いの予感に期待が高まります。冒頭はダンテスが孤島の監獄に投じられるシーンから。荒れ果てた地へ乱暴に追いやられる凰稀さんは、整えられたリーゼントに白いブラウスとパンツで、1人だけ発光するように輝いていて、地獄への序章には不似合いな美しさが余計に切なさを誘います。事態がのみこめないままのダンテスに、二度と元の世界へは戻れない烙印を押されたと同時に、舞台は華やかだった数日前へと転換。なぜこんな悲劇が訪れたのかが語られます。

 ―19世紀初頭、港町マルセイユ。船長への昇進も決まった若き航海士エドモン・ダンテス(凰稀)は、メルセデス(実咲)との結婚式を迎え、幸せの絶頂にあったが、突然、身に覚えのない容疑で逮捕されてしまう。

 ダンテスは先の航海で、政府から近づくことを禁じられているエルバ島へ上陸せざるをえなくなり、そこに追放されているナポレオンから手紙を託されていた。ダンテスを忌々しく思っていたフェルナン(朝夏)とダングラール(悠未)はそれを利用し、彼がナポレオン派のスパイだと密告。それを受けた検事補のヴィルフォール(蓮水)は無実だと確信するが、手紙の宛先が自分の父親と知り、口封じのためダンテスをシャトー・ディフの監獄へと送り込んだのだった。

写真:「モンテ・クリスト伯」より「モンテ・クリスト伯」より、フェルナン役の朝夏まなと=撮影・岸隆子

 未来への希望に満ちたダンテスは、不器用ながら誠実さにあふれた優秀な青年でした。社長令嬢メルセデスとの結婚で、まさに人生は順風満帆。そんな2人を横目で見ていたのが、いかにも腹に一物ありそうなフェルナンとダングラールです。

 貴族のフェルナンを演じる朝夏さんは品があり、なかなかの色男っぷり。ダンテスがメルセデスと結ばれたことに嫉妬心をたぎらせています。悠未さん演じるダングラールはあごひげもセクシーで、海の男らしく少し荒ぶれた雰囲気。彼もまた、若いダンテスが先に出世したことで怒りを覚えていました。そんな2人が企んだ陰謀に、蓮水さん演じる切れ者の検事補ヴィルフォールが、ダメ押しの決定打を下すという展開で、フェルナン・ダングラール・ヴィルフォールのトリオはとにかく恐ろしい。でもこの極悪さ加減が実は男役の腕の見せ所で、憎らしくもカッコよさを磨ける役どころなんですよね。近頃、歌唱力がぐんと向上した朝夏さんと、確かな実力の悠未さんのデュエットも迫力満点で、しっかりと聴かせてくれます。

(2)凰稀と実咲、落ち着いた大人のコンビ

2013年3月27日
写真:「モンテ・クリスト伯」より「モンテ・クリスト伯」より、モンテ・クリスト伯役の凰稀かなめ(写真左)とメルセデス役の実咲凛音(右)=撮影・岸隆子

 実咲さん演じるメルセデスは、ダンテスをひたすら愛する控えめな女性。彼女もまた極悪人たちに運命を変えられてしまうのですが、後半の母として子を守るために立ち向かうシーンは圧巻で、歌や演技のレベルも高く、落ち着いた演技は観ていて安心感があります。今後も凰稀さんとの大人っぽいコンビとして成長していくのがますます楽しみになりました。

 純矢ちとせさん演じるヴィルフォールの妻エロイーズも、なかなかの曲者ぶりを発揮しています。純矢さんは強かったり、悪かったりする役がとても上手な演技派で、芝居を引き締めるのに欠かせません。すみれ乃麗さんは、モンテ・クリスト伯の屋敷で踊るエデ姫役。愛花ちさきさんはダングラールの妻エルミーヌ役。彼女らも秘めたる過去を持っていることが後半で明かされます。

 難しい内容をわかりやすく説明するために、現代人も登場します。ミス・メアリー(美風舞良)率いるアメリカのハイスクール演劇部員のケント(蒼羽りく)、ジェニファー(伶美うらら)らが、時折、芝居の中に登場し、物語の展開に感想や解説を語り合うなどして、ストーリーテラーの役割を担っているのも面白い試みでした。

(3)絶望と憎悪、ボロボロの姿の凰稀

2013年3月27日
写真:「モンテ・クリスト伯」より「モンテ・クリスト伯」より、エドモン・ダンテス(後のモンテ・クリスト伯)役の凰稀かなめ=撮影・岸隆子

 ―ダンテスが孤島の監獄シャトー・ディフの暗い独房に入り6年。ただ無為に生きるだけの日々だったある日、目の前に同じく無実の罪で囚われているファリア司祭(寿)が現れた。司祭からあらゆる学問や知識を学び、再び希望を取り戻すダンテス。やがて死を間近にした司祭からモンテ・クリスト島の財宝のありかを教えられ、司祭の死体と入れ替わり、脱獄に成功する。

 海に漂流しているところを密輸船に助けられたダンテスは、ボスのルイジ・ヴァンパ(七海ひろき)や手下のベルツッチオ(緒月)らの協力も得て、財宝を手に入れ、モンテ・クリスト伯と改名。ついに新しい人生を歩み出した。フェルナン・ダングラール・ヴィルフォール、そしてフェルナンに嫁いだメルセデスに復讐するために…。

 ボロボロの姿で抜け殻のようになったダンテスの前に登場するファリア司祭には、寿さん。味のあるお芝居で、いつも重要な役割を担う、頼もしい組長さんです。今回はダンテスの師匠ともいえる立場から、彼の心に深く静かに訴え続ける演技が素晴らしく、前半に続き後半でも泣かされてしまいました。

(4)明るさが魅力、熱血人情派の緒月

2013年3月27日
写真:「モンテ・クリスト伯」より「モンテ・クリスト伯」より、ベルツッチオ役の緒月遠麻=撮影・岸隆子

 緒月さん演じるベルツッチオは熱血人情派。緒月さんの持つ濃い熱さと相まって、明るさが魅力的なキャラクターです。こちらも、復讐という名の鎖に縛られ、自分を見失うダンテスを根気よく諌めるのですが、ファリアとベルツッチオがダンテスを思い、訴えるセリフの一つひとつに胸を突かれてしまいました。もしかしたら誰しも心の奥底に思いあたる部分があるのかもしれません。

 閉ざされた空間から逃れられない絶望。そこから生まれる、自分を陥れた者への憎悪―。

 ダンテスは司祭に巡り会えたことで、脱獄ヘの希望を見出しますが、そのエネルギーの源はただひたすら復讐への執念のみでした。目的を果たしていくことで、ダンテスの心は救われるのでしょうか。憎しみだけを生きがいにしてきた彼が、やがてたどり着いた終着点とは…。

 クールで淡々とした印象の凰稀さんが激しく感情をほとばしらせ、情熱的に演じる姿はトップとしての求心力を強く感じさせてくれます。星組時代、「愛と青春の旅だち」でも憎らしい役を演じていましたが、まだわずかに青さの残っていたあの頃からくらべると、これは飛躍的なアダルト化でしょう。モンテ・クリスト伯となってよみがえった姿も、いかつい紳士でやっぱり渋くてカッコいい! 何を着てもサマになり、立ち姿の美しさだけで感動させられるのは、凰稀さんならではの強力な武器だと改めて思いました。

 全体的に重いストーリーではあるのですが、現代のハイスクールの生徒たちや、ベルツッチオの明るさがよい具合に空気を緩和し、憎しみの泥沼から這い上がるダンテスの心の変化や、メルセデスとの愛。さらに思いもよらなかった喜びの事実があるなど、胸が熱くなる場面もたくさんあります。ラストはすがすがしささえ感じられる、重厚かつ見ごたえのある作品でした。

(5)豪華幕の内弁当のようなショー

2013年3月27日

 2幕のショーは、「Amour de 99!! ―99年の愛」。99年目を迎える宝塚歌劇の歴史の中で、人気が高かったショーやレビューを織り交ぜた、いつもの藤井大介先生の作品とは少し趣が違った内容となっています。次々と現れる名シーンの贅沢さは、まるで各組のスターが競演するタカラヅカスペシャルのよう。昔ながらのファンには懐かしさを、新しいファンには知らなかった伝統がたっぷり味わえそうです。

 オープニングは、日本物ではおなじみの「チョンパ」から。パッと照明が一瞬で明るくなると、舞台上と銀橋に出演者がズラリ並んでいるという、目の覚めるような演出で、客席からも思わずため息が出そう。男役は白燕尾、女役も白地に黒の刺繍やリボンがほどこされた可愛らしいドレスで、華やかなレビューの幕が開きました。

 昔ながらのファンにはたまらないショーが続々と登場しますが、最大の目玉は、なんといっても男役トップスターが「ダルマ」の衣装で登場する1960年作「華麗なる千拍子」の「パイナップルの女王」でしょうか。寿美花代さんや轟悠さんも演じた有名なキャラクターですが、今回は凰稀さんが見事な脚線美を披露し、お客さんの視線を釘付けにします。

 大舞踏会で泥棒紳士が令嬢を狙う、86年作「メモアール・ド・パリ」の「パッシィの館」では、実咲さんと朝夏さんが優雅なワルツを披露するほか、67年作「シャンゴ」では、夕焼け空の下、専科の美穂圭子さんの朗々と響く歌声をバックに、凰稀さんと女役に扮した緒月さんが踊る、絵画のような美しいシーン。

 そのほか、歴代の名演出家、内海重典、横澤英雄、高木史朗、小原弘稔、鴨川清作の5人が作り出した名シーンも、当時の写真をスクリーンに映し出しながら再現。ここでは、男役の澄輝さやとさん・愛月ひかるさん・蒼羽りくさんと、娘役のすみれ乃さん・瀬音リサさん・伶美さんらフレッシュトリオなどが中心となって活躍します。7月のバウホール公演の主演が決まった蓮水さんと七海さんのコンビ、美女に囲まれた悠未さん、などバラエティーに富んだ短いシーンが数多くあるので、若手スターが随所で活躍できるのもいいですね。

 大階段の黒燕尾群舞では、なんと男役たちが1本の赤いバラを手に踊ります。さらに最後は凰稀さんが銀橋でひざまづき、最前列のお客様にそのバラをプレゼントという、なんとも粋な演出で憎い!

 まるで老舗料亭の自慢メニューがぎっちりつまった、豪華幕の内弁当のようなショーです。重厚なお芝居と合わせて、お花見気分で楽しんでみてはいかがでしょうか。

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    neko Chan 發表在 痞客邦 留言(0) 人氣()